
ここ数年で、一般の会社員や個人事業主の方がよく使うようになった言葉があります。
それは、「エビデンス(証拠)」という単語です。
本屋に平積みされる本でも、タイトルや帯に「エビデンスのある~」と載ることが増えました。
科学や統計に基づいて考えることの大切さを多くの人が理解してきたのでしょう。
これは、オカルトや都市伝説がはびこっているよりは、ずっといい傾向です。
私もエビデンスは重視しているので、社会が健全な方へ変わっていると感じています。
ただし、注意してほしいこともあります。
それは、「エビデンスという単語に反応するだけ」になってはいけないということです。
どういうことかというと、世の中には、「エビデンス」と連呼しているだけで、実際には活用できていない人が多くいます。
たとえば、YouTubeの動画で出演者が次のように言っていたとしましょう。
「これは、アメリカの名門大学のイェール大学のエビデンスに基づく話です。
被験者を集めて、調査したところ次のようなことがわかりました。
・3%だけが目標を持っている
・97%が目標を持っていない
その後、20年後の追跡調査をしたところ、興味深いことがわかりました。
3%の人たち全員の年収の合計は、97%の人たち全員の年収の合計よりもずっと多かったのです。
このエビデンスからもわかると思うんですが、目標設定は人生を変えるのです」
上記の話を聞いて、あなたはどう思いましたか?
「知らなかった! そうなんだ!」
などと鵜呑みにした人は、注意してください。
「エビデンスという単語に反応しているだけ」
になってしまっているからです。
というのも、このイェール大学の研究は、実際には存在しません。
一部のセミナー講師などが話したせいか、都市伝説のように広まっているのですが、調べてみると、こんな論文は見つからないのです。
イェール大学はもちろん、他の大学を含めて調べても前述の研究は発表されていません。
20年に渡る研究ですから、もし本当なら心理学者の間で広く引用されているはずです。
しかし、語っているのは、うさんくさいセミナー講師ばかり。
あるいは、その講師の鵜呑みにした情報弱者たちです。
つまり、これは「エビデンスがあるように見せかけた、ただの作り話」というわけです。
にもかかわらず、世間には大学名などを聞いただけで「エビデンスがあるんだ!」と無条件で信じてしまう情報弱者は本当に多い。
一昔前は「アメリカ軍も使っている」とか「NASAが開発」とか「東大教授の」とかが流行った時期がありました。
今の状態は、残念ながらこうしたキャッチコピーが「エビデンス」に置き換わったに過ぎません。
論文などの証拠が実在するかどうかを精査している人はほとんどいないのです。